日本のサイダー業界が進むべき「道」

Nat West of Reverend Nats Hard Cider

以下は雑誌inCiderJapanの第7号に掲載された記事です。
作家:ナット・ウェスト、レバレンド・ナットズ・ハード・サイダーの所有者


日本の高品質なりんごと小規模農業は世界的にも注目されている。そのような優れた評価を得ているにもかかわらず、日本のサイダー文化はまだ始まったばかりだ。しかし、日本以外のりんごの栽培国にはしっかりとしたサイダーカルチャーがある。そこで私は、日本産のサイダーを飲みながらそのことについて思いを巡らせてみた。日本のサイダー業界はどのように発展するのだろう?日本と似た特徴を持つサイダーの生産地から今後の参考となるヒントはあるだろうか?このようなことを考えていると、日本の生産者が辿ることのできる3つの「道」が見えてきた。どれを選んだとしても成功の鍵となるユニークな生産方法、消費者へのアプローチ、パッケージング方法、そしてマーケティング戦略が存在するので紹介しよう。

ファームサイダリー
日本には古くから続く小規模農業の歴史があり、農家は基本的に大都市から少し離れたところに散在している。この様子は、ニューヨーク州のフィンガーレイクス地方やイギリスのウェストカントリー地方と少し似ている。これらの地域では、各農家が少量ずつサイダーを造っており、地元の消費者や「サイダートレイル」を辿り農産地を旅の目的地として楽しむアグリツーリストたちに向けて販売されている。実際、私自身がオレゴン州の有名な「フッドリバー・フルーツループ」(果樹園を巡る観光ルート)でサイダーテイスティングを行うとき、各果樹園で財布が空になるまで買い物を楽しむ観光客に遭遇する。そんな彼らの行動にはいつも驚かされるが、地方の農家を支援できるのは、彼らにとって嬉しいことなのだ。

ファームサイダーはその地で栽培されたりんごを原料とするので、生産の時期が限られている。ファームサイダーを求める人々は、そこで育てられた材料を生産者自身が加工し、サイダーを造っていることに価値を感じている。しかし、りんご農家が自身の果実を使用してサイダーを造るとすると、1シーズンで1年分のサイダーを造る(あるいは、果汁を貯蔵しておく)必要があり、生産コストが高くなってしまう。現状、これはファームサイダリーの課題であり、解決しないことには今後の成長と成功には繋がらない。

ファームサイダーファンは、りんごが存分に味わえるファームスタイルサイダーを好むが、りんご以外にもその土地の農作物が使われているなら、興味を持って飲んでくれる。例えば、アメリカの田舎の「フルーツワイン」は、生産量こそ少ないが使われる材料は幅広く、タンポポや桃、クルミ、ベリーなどがある。ワイン愛飲家の中には邪道だと眉をひそめる者もいる。一方で、アメリカにはこのような「洗練されていない」食べ物や飲み物を、家族で運営する農園で造り販売し、多くの収入を生み出している農園が多数存在する。

ファームサイダリーの生産者は皆、観光客はそこでしかできない体験を望み、そこだけにしかない土産物に惹かれるということを理解している。このような観光客は、例えボトルサイダーの値段が高くてもあまりひるむことはない。なぜならば、農園の販売所には他社商品は陳列されず、値段の比較がされないうえ、ファームサイダーは都会ではなかなか見かけないからだ。そこでしか手に入れることができないので付加価値がついている。このようなことを踏まえ、生産者は、小瓶ではなく大きなボトルでサイダーを販売するケースが多い。やはり500mlのボトルを1,000円で売るよりは、1,000mlを2,500円で売った方が利益になるからだ。

ファームサイダリーはできるだけその地域とのつながりをアピールすることによって、サイダーの価値を上げることができる。さらに、その場所ならではの体験、例えばウェディング、秋のりんご狩り、季節の変わり目ごとに農園へ行くこと、キャンプやハイキング、アウトドアでのクッキング、自然教室、周辺農家とのコラボレーションなどをサイダーと結びつけることで、より一層ファームサイダーのブランド力を上げ、付加価値をつけることができるのではないだろうか。

サイダーをワインとして扱う
バージニア州、バーモント州、ニューハンプシャー州など多くの東海岸のサイダー生産者は、サイダーは「ワイン」であり、同じように扱われるべきだとワインドリンカーを説得しようとしている。ワインのように扱われるサイダーの特徴は、高価格で、ヴィンテージがつけられ、特定のりんごの品種が使われ、テロワールが重視される。例外はあるが、これらの取り組みに消費者や飲食店のソムリエはあまり乗り気でない。

サイダーをワインだと主張するサイダー生産者はワイン生産者のように果実の品種や栽培者を重視する。酸味の度合いや複雑さ、アルコール分、風味を表現するためにエアルーム(=伝統的な)りんごやサイダー専用品種のりんごがブレンドされている。サイダー生産者が独自のりんごを栽培する必要は滅多になく、他農家のりんごを積極的に使用するも良しとされている。ただ、ワインの観点から造られるサイダーに使われるりんごは、一般的な市場では手に入れることができず、栽培するにも購入するにも、生食用りんごの何倍ものコストがかかる。そのうえ、ファームサイダリーと同じように、ワインスタイルのサイダー生産者は1年分のサイダーを造るために、計画的にりんごを調達し、醗酵させ、貯蔵に関しても前もって考えておかなければならない。このような事業にとって、資金のやりくりは重要であり、わずかなミスが大惨事を招くこともある。

ワインスタイルのサイダーを上手く販売するには、生産者は特にワイン愛飲家に気に入られなければならない。このようなサイダー生産者はまず、同じ産地のワインを扱う先進的なワインバーと商談をする必要がある。販売促進場所は主に、りんごが栽培されている地域に限られる。サイズは通常750mlで販売され、価格はワイン寄りの2000円以上に設定されることが多い。また、成功するワインスタイルサイダーの生産者は、自身のサイダーについて語るのが上手く、その中で栽培地とテロワールについてもポイントを抑え、巧みに伝えるスキルを持っている。さらに、ワインスタイルのサイダーを求める消費者は洗練されているため、サイダーはワインでこそないが、魅力的なアルコール飲料だと理解してもらえなければ、低アルコールの割に値段の高いサイダーを手に取ってもらうことはできない。また、日頃からワインを飲む消費者は、原料がストレートに果実だけの飲料を好み、ホップやチェリーの使用、酵母選び、樽熟成において、従来と異なる方法で造られたサイダーを敬遠しがちである。その結果、ワインスタイルのサイダーは、必然的に種類やスタイルが限られている。

クラフトビールの観点でサイダーを見る
前述の2つの「道」は、その国の農業の伝統に大きく影響を受けるが、実は選べる道はもう1つある。どのような方法かというと、アメリカの北西部(オレゴン州、ワシントン州)のように、すでに広まっているクラフトビールの波に乗ることだ。「Beervana(ビアバナ=ビール天国)」のニックネームを持つオレゴン州が米国最大のサイダー市場となったのは決して偶然ではない。オレゴン州の多くのビール愛飲家は、さまざまなスタイルのビールを求める。彼らは、その中の1つのスタイルとしてサイダーを嗜んでいる。ポートランドの典型的なビールオタクは、どんなアルコール飲料にも、飲むに適した場面があると考え、ライトボディで酸味を感じられるサイダーと、重めのインペリアルスタウトのかけ離れたスタイルを、それぞれに合うシチュエーションで楽しんでいる。

サイダーに関する教育者として個人的に感じることは、サイダーの話はビールファンにも通じるということだ。アメリカ国内の一般的なクラフトビール通は、クラフトビールについてかなりの知識を持っている。それは、サイダーファンの平均的なサイダーに関する知識量をはるかに上回る。事実、サイダー専門家の私でも、ビールを造ったことはないが、サイダーよりビールについて詳しい。このように、クラフトビールは非常に確立されており、サイダー生産者の中には普段からクラフトビール業界と携わっている者もいる。彼らは、未だに基本的なサイダーの情報を広めようとしている生産者と比べて、ノウハウがあり販売力に長けている。

ビール愛飲家をターゲットにサイダーを造る日本の生産者はビール醸造所と同じ免許の取得を検討してみてはどうか。そうすることによって、りんご以外にスパイスやホップを加えることができ、15%の麦芽ベースでなければならないが、上手く造れば麦芽を感じることはない。私は実際、このようなサイダーを口にしたことがあり、生産者の醸造の手助けをしたこともある。麦芽を使用したとしても味には全く影響がないので、生産者は安心して良いだろう。

冒頭で述べた通り、日本のサイダーカルチャーはほとんど発達していないため、消費者は風味や成分に対する先入観を持っていない。そのため、ビール醸造寄りの戦略でサイダーを造る生産者は、幅広い種類のフレーバーやスタイルを思いのままに造ったとしてもサイダーとして受け入れてもらえる。ただし、この自由なサイダー造りを消費者に理解してもらうことは生産者の責任である。すなわち、生産者は消費者に向けて、サイダーの造り方が無数に存在することを積極的にアピールすべきだ。

サイダーのパッケージには、缶、ケグ(樽)、ボトルなど、クラフトビールのトレンドを取り入れると良いだろう。世界のビールの60%は缶で販売されている。バーやレストランでは、ケグでビールやサイダーを提供することによって最も利益を得ることができる。ちなみに、現在のアメリカ国内のサイダーのボトル(750ml以上)販売の割合はわずか5%であり、その数は日に日に減少している。小売販売価格においては、できることならクラフトビールに寄せるべきだ。しかし、一見するとそれでは低くすぎると感じるかもしれない。ただ、一言でクラフトビールといってもその販売価格は幅広く、サイダーはその中でも少し高価なクラフトビールと同等な値段を付けると良いのではないか。そうしたとしても、水と麦芽を混ぜて造るビールより、新鮮な果汁が原料のサイダーの方が原価が高いと消費者も分かってくれるはずだ。

ビール好きのサイダー生産者はクラフトビールバーやクラフトビールフェスティバルでサイダー販売の機会を見つけられるだろう。さらに、ビール醸造所とコラボしてサイダーを造れば、サイダーになんとなく興味を持っている人々を新規のサイダーファンにするきっかけになる。とにかく、すでにクラフトビール愛飲家の好むライブミュージックやアーバンカルチャー、クラフトフード、新商品などにサイダーでも応えていけば道は開けるはずだ。

最後に、今回紹介した3つの「道」の成功例は世界に多く存在するため、サイダー造りを始めて間もない生産者には是非直接、経験のある海外生産者を訪ねることをおすすめする。しかしそれ以上に大切なのは、日本のサイダー業界がこれからどのように発展していくかを予想するだけでなく、生産者自身が自分の価値観を尊重し、それを反映できる事業を築き上げることである。代々続く果樹園の場合、生食用のりんごの栽培と提供以外にも、サイダーを造ることによって事業を多様化させられる。そうすることで、今まで築き上げてきた農家の伝統を引き継ぎながら、果物に新たな価値を与えることができるだろう。ワイン生産者の場合、ぶどうの産地からりんごも手に入れサイダーを造れば、すでに構築された販売経路を活かし、ワインエキスパートたちをサイダーの世界へ巻き込むことができるのではないか。そして、都会に住む熱心なビール好きの若者なら、ホットなクラフトビール業界と力を合わせ、クラフトビールドリンカーの好むような、ビールに負けないユニークなサイダーを提案するのはどうだろう。このように、日本のサイダーを取り巻く環境は世界と比べても非常に珍しく、今後どのような道を辿るのかとても楽しみだ。私自身、この先日本で造られるサイダーを全て試していきたい。そう、ひとつ残らずね。

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